【新刊紹介】『ひかりをかかげて 永井 隆 原爆の荒野から世界に「平和を」』片山はるひ著

2015年6月8日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原爆投下から今年はちょうど70年。ノートルダム・ド・ヴィ会員の片山はるひ執筆による、永井博士を分かり易く紹介する本が先日出版されました

片山はるひ 著
1,296円(税込)
ISBN978-4-8184-0910-1
日本キリスト教団出版局
初版発行:2015年3月10日

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もくじ

読者のみなさんへ
第1章 永井隆ってどんな人?
第2章 島根から長崎へ
第3章 入隊、そして洗礼と結婚
第4章 おかしな戦争
第5章 医学者として
第6章 原子爆弾
第7章 再び、浦上へ
第8章 如乙堂
第9章 平和を
もう一度、読者のみなさんへ
永井隆年譜
読書案内

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☆永井博士&この本の紹介です☆

日本は今年、戦後70年を迎えましたが、平和を希求する旅が終わっていないことは誰もが実感するところです。戦争を容認しようとする現実をまえに希望が空転するようなめまいを覚えることがあります。争いのない世界をのぞむことが時勢の流説に左右されていいのでしょうか。平和への想いは時空を超えて共有できないのでしょうか。

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「放射線科を専攻しないか」といわれて、「はい、やりましょう」と答えた人がいます。私たちは彼のことを「永井博士」と呼んでいます。永井博士が物理的療法科に進学したのは、耳をわずらい、聴診器が使えなかったからです。しかたがなくて、たまたま選んだ道でした。そのために、文字通り死ぬほど放射線を浴びつづけます。
永井博士は科学に魅せられ、その法則をお造りになった方の偉大さに感嘆した人です。科学の研究に一途であったように、家族に対しても誠実を尽くしました。永井隆はまっすぐな人でした。科学も妻も彼にとっては真理でした。両方とも神さまから来ていることをよく知っていたからです。

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永井博士は熱さの冷めやらない被爆地で、原子爆弾がもたらしたものを冷徹に観察した人です。敗戦の悲しみにうずもれることなく、看護の合間に報告書を書き残しました。能力や技能は他の人のために使うようにと神さまがくださったのを知っていたからです。永井博士は仕える人でした。

研究①

 

 

 

 

 

永井博士は戦争にも行きました。血と泥にまみれた戦場であったのは惨めさと苦しみだけでした。家族の大切さが身に染みました。後年、病み衰えた体で「どん底に大地あり」と書いたのは、希望を輝かせたかったからです。病身に鞭打ってたくさん本を書きました。残してゆく二人の子どもの生活費のためでした。叫びだしたいほどの離別の痛みを前に、出てくる言葉は嗚咽や憎悪ではなく、単純な愛の言葉でした。独りでしたが、永遠のいのちを信じていました。信じた方が裏切ることはないと知っていたからです。永井博士はよい父でした。

神さまの選びは私たちには不思議に見えます。もしも永井隆が内科に進学していたら、原子爆弾を克明に語る貴重な記録はなかったでしょう。もしも永井隆がみどりさんと一緒にならなければ、ひたむきに子どもの最良に心を砕く父の姿は見られなかったでしょう。

誠一と茅乃

 

 

 

 

 

人が鐘を鳴らすのは祝い、弔うときです。永井隆はその人生においてたくさんの鐘を鳴らしてきました。この本からは彼の鐘の音がきこえてきます。著者はあたかも彼と顔見知りであるかのように彼のことを私たちに生き生きと語りかけています。この伝記は穏やかに、けれども力強く、大切なものが何かを私たちに示してくれています。また、ティーンズに向けられているために、この本には見て楽しいイラストが満載です。それでも、わかりやすく流れるように読める文章のシンプルさがかえって大人の心を打ちます。この本は永井隆を知りたい人や、彼の研究をしようと思っている人に格好の入門書でもあります。『長崎の鐘』や『この子を残して』などの彼の著作を読むにあたって、よいガイドにもなるでしょう。いくつもの弔いを通して、いのちの賛歌を響かせたひとりの人間が今日の私たちに平和についての鐘を鳴らしているのを一緒にきいてみませんか。(M.M.)

永井隆ロザリオ