『闇』を貫く光 幼きイエスの聖テレーズ(テレジア)の霊性(2)

2015年4月28日

2014年9月28日(日)東京教区 関町教会において
ノートルダム・ド・ヴィ会員の 片山はるひ が
リジューの聖テレーズについての講話を行いました。
その講話を数回に分けてご紹介して行きます。

今回はその2回目です。

『闇』を貫く光 幼きイエスの聖テレジアの霊性
片山はるひ(ノートルダム・ド・ヴィ会員)

5.宣教の保護聖人

ご存じのように、聖テレジアは宣教の保護聖人です。ザビエルとテレジアが共に宣教の保護聖人であることは関町教会では自明のことでしょう。しかし、少し考えてみると、とてもおもしろいことだとは思いませんか。

ザビエルは全世界を回りました。インドから日本まで来ました。テレジアのほうは、カルメル会の禁域の中にいて、15歳で入って24歳で亡くなるまで一歩も外に出ていません。このふたりがどうして一緒に宣教の保護の聖人と宣言されたのか。どうして中国にせよベトナムにせよ日本にせよ、パリ外国宣教会の宣教師たちがテレジアの自叙伝を携え、なぜそれほどテレジアを愛して、行った国に広めていったのか。その秘密はなんなのか。これも皆さんと考えていきたいと思います。

 

自叙伝の言葉です。

 

私には使徒の召命があります。全世界を駆けめぐりあなたのみ名を伝えたい。世界の五大陸、もっとも遠い島々にまでも福音を宣べ伝えたい。

                            (自叙伝 286頁)

 

これもテレジアの霊性の鍵のひとつだと思います。

彼女はカルメル会の中にいて、「もうここでお祈りしていればいい」という人では決してなかったのです。その心はミッション、宣教に燃えていた人です。しかも彼女はとても欲張りで、ある一時期だけ宣教師でいるのではなく、「世の終わりまで宣教師でありたい」(自叙伝 286頁)と思っていました。だから今も働いているのです。

 

6.生まれ育った家庭

ではここから、彼女の生涯を追いながら彼女の言葉とともに彼女の霊性を知っていきたいと思いますが、それはどうしてかというと、彼女の霊性は彼女の生涯と切り離せないからです。生きた体験の中で「小さき道」という教えを築き上げたのです。その生涯は、私たちにとって非常に励ましになるものだと思います。

図1

図2図3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここでテレジアのご両親をご紹介します。

右がお母さまのゼリー・マルタン、左がお父さまのルイ・マルタンです。ここからはまだシスターではないのでテレーズという呼び方にかえさせていただきます。まん中は4歳のテレーズです。

この一家はかなり特別な一家です。このふたりも聖人なのです。ルイ・マルタンとゼリー・マルタンは、2008年にカップルで福者という聖人のひとつ前の位に上げられていますが、今も奇跡が出てきていますので、たぶん聖人になるでしょう。そうすると、両親・娘が全部聖人という関係になります。特にカップルの聖人は珍しいものです。このおふたりのメッセージとテレーズのメッセージは、ちょうど世界代表司教会議(世界シノドス 2014年10月5日から19日に開催)で家族がテーマとなっている今年、注目すべきもので、私たちにいろいろなことを教えてくれると思います。

ひとつ注意していただきたいのは、この家族がとても苦労した家族だったという点です。家族の中にはいろいろな苦しみがあると思いますが、それらをほとんど全部経験している家族です。

まず、お母さんは乳がんで亡くなります。子どもは生き残ったのが5人、しかも皆シスターになっています。そのほかに4人の子どもを亡くしていて、男の子はすべて小さいときに亡くなっています。そのことでどれだけ苦しんだことでしょうか。

お母さんは自分が乳がんになりながら、レース編みの家内工業をするビジネスウーマンで、ひどく根を詰めて働きます。お父さんは時計職人でした。実は若いとき、お父さんは「神父になろう」、お母さんは「シスターになろう」と思っていました。ところが神父さまから「違う」と言われて、橋の上で出会うことになります。それからしばらくの間は、兄妹みたいに暮らそうかと思っていたのですが、神父さまから、「夫婦とはそういうものではない」と言われ、それから次々と子どもが生まれていったのです。

テレーズの生涯でいうと、お母さんはテレーズが4歳のときに亡くなります。テレーズはいちばん下の子どもで、そのショックを14歳までずっとひきずっていきます。そして愛情不足から心身の病気になります。

お父さんのほうは、テレーズが入会したその年に、今で言う脳動脈硬化症に尿毒症が加わり、精神錯乱になります。行方不明にもなります。「娘たちが狙われている」と言って拳銃を持ち出し、どこかへ行ってしまいます。そして危険人物とみなされ、精神病院に入院します。そこに3年3ヵ月いたものの、結局は普通の状態には戻らずに亡くなります。

テレーズは15歳でカルメル会に入りますが、末っ子でいちばん可愛がっていたテレーズが入会したときにお父さんの精神錯乱が起こったので、「あの子まで入っちゃったからだ」と言われ、その噂がリジューの町に広まります。もちろんカルメル会にもその噂が届きます。それが15歳のテレーズにとって、どういうインパクトであったか。テレーズがどれだけ苦しんだかということのひとつです。

つづく